―ウィルフォート国際特許事務所では、中小企業のお客様へのアプローチに力を入れていると伺いました。
そうですね。今年は積極的に中小企業のお客さんを増やそうと思い、そのために新しいメニュー作りにも取り掛かろうとしているところです。大企業は人員も多く、弁理士も在籍しているのであまり特許事務所に頼る必要がありません。でも中小企業はそこまで人員をかけられない。だからこそニーズがあり、支援する価値があると思っています。中小企業の特許1件あたりの価値は、大企業の1件よりも大きいですよね。その分我々としてもやりがいが大きいです。
―特許を取得することで戦略的な事業展開をすることができたり、社員の収入が増えたり、会社が大きくなっていく過程で支援ができるのは素晴らしいことですね。
そうですね。アメリカのベンチャー企業などは、特許を先に取得しながら市場に入っていきます。それがあるが故に大企業に負けない力がついていくし、金融機関からの支援も受けることができる。特許が市場開拓で力を発揮するんです。中小企業にとってはそれが大切です。
―どうやって中小企業のお客様を獲得しているのですか?
今までは自社のセミナーに参加したお客さんにアプローチをしたり、お客さんから相談をいただいたりということが多かったですね。ただ、セミナーをやると、来るのは大企業ばかりなんです。セミナーを探してやれるだけの余裕があるのは大企業で、中小企業の人たちは余裕がない。こちらからアプローチしていかなければならないことに気付いたんです。さらに言えば、中小企業でも予算の権限を持っている人と繋がらないと意味がない。だからセミナーに参加してくださる現場の技術者の方がどんなに興味を持ってくれたとしても、権限のある人にアプローチしていかないとお客様の獲得はできません。
そこで、今年からは、すでにコネクションを持っている人、例えば有名な企業のOBの方たちに協力をお願いして、ハブになってもらうという動きをしています。そしてうちが提供できるサービスに価値があると思ってもらえるような企業を紹介してもらう。そこへ行ってプレゼンテーションをしたり提案書を出したりしながらやっていこうと思っています。
―これからお客様を集めて、コンサルティングに注力していこうというお考えなのですね。
そうですね。お客さんの支援をすると同時に、コンサルティングというビジネスがどれだけ広がるのかということも考えなくてはいけないと思っています。お客さんの立場で考えると、いつまでも我々に面倒を見てもらいながら知財の活動をする、技術開発をやるというのは喜ばしいことではないからです。自社の技術者にできるようになってもらうべき。それにアウトソースもできますよね。そもそも人員すら抱える必要がありません。つまり、特許出願の手続きを、特許事務所が代わりにやってくれる=アウトソースできるというニーズはこれからもあると思います。一方で、技術開発となれば、内部にちゃんと開発すべき人がいるわけですから、最初のうちは我々のコンサルティングを受けても、慣れれば必要がなくなるわけですよね。しかもコンサルティングの仕事は労働集約型ですから、一人の担当が何時間やっていくらという費用計算になる。手間はかかりますが、収益率はあまりよくないわけです。この辺りは今後も考えながらやって行かなければいけません。数はまだ多くありませんが、既存のお客さんの中にも、企画や開発から相談に乗って、一緒に進めてくれるところがないかと探しているところもあります。こうしたお客様とのお付き合いは大切にしていきたいですね。
もう一つ考えているのは教育です。技術開発や商品企画では、アウトソースではなく、それをやっていくためのテクニックを教育してほしいというニーズがあります。社員に教育し、自社の社員ができるようにする。ただしこのニーズは、日本だけの人口で見るとごくわずかです。ですから世界を相手にしなくてはいけません。世界中にネットワークをつくって、世界中の人たち用の教育プログラムをつくる。それぞれの国に対して、ITを通じた遠隔教育で、それなりにできるようなものを作っていこうと考えています。
今、特に教育のニーズが高いのは新興国です。今まで石油資源に頼っていた中東の国々がそこから脱却して発展していくためには、人の能力を上げていくしかありません。アフリカも然り、南米も然りです。技術力は日本やアメリカに比べたらまだ低いですし、そういう人たちに対してインターネットを通じて、リーズナブルに、ハイレベルの教育ができるようなものを提供したいと考えています。既存の大学教育のような知識教育ではなくて、今やっている技術の開発や新しい商品の企画など、要するにイノベーションを起こしていくためのテクニックを教えることができるといいですね。新興国の場合は、政府が関与して後押ししてくれるかもしれません。一人ひとりに教育が与えられて、自分の力で新しいことを考えられる、問題を解決できる能力が世界中の人に備わったら、もっともっと世の中はよくなると思うんですよ。
―もう着手はされているんですか?
英語の教育プログラムはすでにありますが、難しいし面白くありません。アメリカの専門家がつくったもので、技術者が見る分にはいいのですが、素人に近い人たち向けにと考えると、面白みがないかもしれません。素人が見て面白いと感じて、これがわかれば人生がもっと楽しくなるだろうと思えるようなプログラムを作っていきたいと思っています。現在、東北大学でこうしたプログラムを導入し、学生たちにいかに興味を持ってもらえるか、面白いと思ってもらえるかを工夫しながらやっているところです。そこでのフィードバックや意見や反省に基づいてプログラムを改善し、小さなところからでも少しずつリリースしていけるといいなと思っています。
―知財はいろいろな可能性を秘めていて、弁理士の先生ができることはここだけじゃないと感じています。皆さん能力が高くて頭がいいのにもったいないと思うこともありますが、上村先生はどのようにお考えでしょうか。
特許法の範囲内で物事を考えていては、もったいないですね。人間が知的に創造した価値あるもの、種自体を保護し、活用していこうという発想自体は非常に重要だし、今後も上手な法制度が必要になるとは思いますが、例えば今やっているような特許の範囲を記載するとか、言葉尻のちょっとした表現で特許の価値が左右されるというのは、人間のエネルギーの浪費だと私は思っています。本来、人間の知恵をどうやって生かしていくか、今後社会がどうなるのが多くの人にとって幸せに繋がるのかということを踏まえて考えていく。こうした視点は重要ですね。とは言え、大きな夢を語るだけではだめですから、そこはバランスを取りながら、一歩一歩よりよいことをしていくという気持ちを持ってやっています。
これからシェア社会になっていくと言われていますよね。今までの社会は、誰かが何かを生産して、提供して、対価を得るという社会でしたが、シェア社会は自分が持っているモノや知恵をシェアする社会です。自分ができること、得意なことをお互いにシェアし合うことで、みんなが楽しく生きていける世の中がシェア社会です。私は発明も同じではないかと思っています。現在の特許の基本は、考えた人が自分で独占し、他の人に侵害させないという権利です。でも独占することが本当にいいのかはわかりません。自分の持っている技術や知識を公開することで、もっといい技術が生まれるかもしれない。人間が他人を信頼することができる、愛することができる、そうして人格が高まれば高まるほど、シェア社会は広がっていくと思います。知的財産の世界もシェア社会になっていき、かつ努力した人には努力しただけの見返りがあるという仕組みになっていったら、争いはなくもっと豊かな社会になっていくと思っています。一人や一社の能力に限界はありますが、優秀な人たちが集まってコミュニティを作ったら、ものすごいアイディアなんかも出てくるかもしれないですしね。シェアできる場ができるのは、面白いですね。
教育の現場でも、クリエイティブな子供たちを育ててあげれば、そうやって活躍しながら生きていける、我々が当たり前にしていた労働の概念とはまったく違う自由な生き方ができるかもしれないし、夢ももてるかもしれない。そういうものを実験的にやってみようと思っています。私たち弁理士は保守的で、現状の枠組みの中で物事を考えがちですが、それだけだと将来への期待が膨らまないですよね。その枠を出た大きい視野で未来を予測して、例えば、今後技術がシェアされて、ITなどいろいろなものと融合していったら、その社会に私たちはどんな新しい価値を提供できるか、自分たちの仕事をどうイノベートしたらいいのかなどと、今後もっと面白くなりそうなことを考えています。
―これから求められる人材とは、どんな人材だと思いますか。また、一緒に働きたいと思う人物像について教えてください。
例えば弁理士として、特許技術者として、当然明細書を書くためのそれなりの素養をもっていることは大切ですが、これからはそれだけでは足りません。社会がどう変わっていくか、その中で価値を提供していくためには我々はどう変わっていくべきかという議論に参加できるような、フレキシブルな思考ができる人と一緒に働きたいですね。知的財産の中に凝り固まっていない、あるいは知的財産の中にいても、自分の目先の業務だけではなく、全体としてより面白くて価値のあるものをつくっていくことを考えたいですね。
今はものづくりとサービス業の境がなくなってきています。ものだけを作ってもお客さんは満足しません。つくった後の戦略などマーケティングの要素も必要です。お客さんがより楽しい、面白い、新しいと思ってもらえるようなソリューションの提供をしていかなくてはいけません。
今は技術も進歩してそれぞれの分野が突き詰められた状態ですから、今後は何と組み合わせるかという発想力が重要になります。例えば、電動歯ブラシの改良に取り組むお客様がいたとします。電動歯ブラシ自体の性能を上げるという考えもできますが、電動歯ブラシと携帯をつなげて何かできないかと考えてみる、ということをお客様と一緒にやっていくんです。電動歯ブラシでやりたいことは、美しい歯、健康な歯になることだけでなく、健康で美しく、人からの好感が得られ、自分自身でも楽しいと思えるような毎日を手に入れることだと考える。そうすれば、例えばスマホのアプリと連動させて、歯の裏までしっかり磨けているかどうかを可視化したり、自宅にいながら歯医者さんに相談したりというようなアイディアが浮かびます。他にも、電動歯ブラシがマウスピースのような形になっていて、それをはめたら勝手に歯を磨いてくれるとか、今までにはなかった柔軟な発想ができる力は重要です。こうした新しい発想を取り入れながらサービス提供をすることで、お客さんの満足度も広がっていくわけです。社会にいかに貢献できるかという探究心や新しい発想を生み出す好奇心は、ぜひ養っていきたいですね。実際、このようなサービスを特許出願サービスと組み合わせてある中小メーカーに提供して、新規性の無かった原発明から、5つの有望な新発明を生み、そのすべてを特許化し、うち1件の特許は大手企業に提供し十分な対価を得た、というようなケースがあります。
【第1回】世界を見据えた戦略的な特許取得がカギ!特許を取り巻く環境の変化と今後の課題(ウィルフォート国際特許事務所所長 上村輝之氏)
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