―先生の経歴を教えてください。
昭和53年に慶応義塾大学の工学部電気工学科を卒業して、警視庁へ。6年間ほど警察官をしていました。最初は派出所の警察官から始まって、その後公安部のテロ対策特殊班に配属。当時日本で多発していた爆弾テロ、過激派の爆発物によるテロや軍用の武器を使ったテロ事件などの捜査をしていました。その後弁理士になろうと思い転職。特許事務所に入って受験勉強をはじめ、3年半くらいで試験に受かり、その後8年ほど特許事務所に勤めて独立しました。 数年前からは、アメリカの企業と提携して技術コンサルティングの会社、アイディエーション・ジャパンという会社をつくって、二足のわらじです。
―警察官から弁理士なったきっかけは?
自分の能力で活躍できる仕事をしたいという思いがありましたが、毎日命がけで働く警察官の仕事が辛くなったという面もあります。
もともと電気工学科で理系出身でしたが、警察官として働いている中では、自分の得意な分野を活かせません。もう少し自分の能力を活かして、かつ能力次第で収入がもらえるような仕事がいいと思いました。そこでいろいろと考えているうちに、警察官というのは一般ビジネスの間では潰しがきかない仕事なので資格をとろうと思い至りました。本屋で資格全書という本を買って、どんな資格があるか調べました。資格があればそれでごはんが食べて行ける資格を探したら、公認会計士や弁護士出てきたのですが、お金の勘定には興味がないから公認会計士は無理だと思い、弁護士を目指そうと司法試験の勉強をしましたがそれも面白くなかった。法律に興味がないんですよね。何かないかともう一度探していたところ、そこで初めて弁理士というのが目に飛び込んできて、初めて弁理士という仕事を知りました。どういう仕事かと読んでみると技術的なことをやるのだとわかって、試験科目も法律科目はあるけど選択科目は技術ばかりなので、これは自分がやれる分野だと。それで弁理士になろうと思って勉強を始めました。
―実際に弁理士として活躍してどうですか。
いい面と悪い面がありますね。私が弁理士になったばかりのころから20年くらい、バブルが崩壊するまではよかったです。というのは、自分の専門技術を活かしてできる仕事なので、特許出願の明細書をつくる仕事は難しいけれど知的ゲームっぽくて飽きないし、警察官の仕事にくらべれば自分に向いていると感じていました。屋根の下で仕事ができるということも大きかったですね。技術を活かして、発明という人間が最先端で考えた知恵の産物を扱える仕事ということで面白く、やりがいも感じていましたし自分に向いていると思いました。だから力をつけようと思って一生懸命やってきました。
ですが、そうこうしているうちにバブルの崩壊によって業界全体が下向きになってきて、その中で疑問が出てきました。私たちは特許の仕事をやっていますが、もっと大きな観点からみたら日本の製造業を発展させるための一躍を担っている。ところが日本のものづくりは変わって、イノベーションに挑戦しないようになってきた。特にリーマンショック以降は激しいですが、バブル崩壊後は失われた20年とも呼ばれていますよね。この20年は経済状況が悪かったために目先の儲かる儲からない、成績がいい悪いだけに目を向けて、ものづくりの本質を忘れたようなものづくりをやっているところがいっぱいあったと思うんです。本来ものづくりというのは、新しくて、みんなに喜んでもらえるものを作り出すこと、過去にできなかったことや過去の人から見たら奇跡だと思えるようなことを日常にしてしまうことが技術じゃないですか。技術を活かして素晴らしいものを作り上げていくというのがものづくりの本質だと思うんですね。でも開発とかそういうものがどんどん弱くなってきて、あまり新しいことはやらない傾向が増えてきた中で、当然特許事務所の仕事は減り、特許事務所の人に対しての要求は厳しくなり、かつフィーが下がっていくという状況が続いていたんですね。
その中で、我々がやってきた仕事は価値があったのかということを、すごく疑問に思うようになった。価値がないとは思わないけど、現状においては自分が今までこれは素晴らしいと思っていた特許出願の仕事が、それだけでは足りないだろうという思いになりました。必要な仕事かもしれないが、それでは十分ではないということにだんだん気付き始めたんです。社会が変わってきたわけですから。もっと高価値な仕事、同じ知的財産に関わる仕事であっても、特許出願だけではなくて、もっと企業にとって大事な、例えば知的財産=人間の創造した価値ある産物をどのように有効利用していくかとか、あるいは人間の想像力自体をいかにもっと促進して素晴らしいものを作り上げていくかとか、あるいは知的財産の権利となった書類に書かれた有益情報を、どう社会に貢献させ活用していくかとか、知的財産経営とかマネジメントと言われる部分にも我々は関与していくべきであるし、知的財産だけじゃなくそれと表裏一体で商品の企画や技術の開発、生産活動にもかかわりを持ちながらより価値あるサポートをしていかなきゃいけないと変わってきました。
だから我々としては単に特許出願、弁理士の専業業務と言われている特許庁に対する手続きだけではなくて、企業が本来目指しているよりよいものを作って市場に提供するということに、もっと深く本質的に関わっていけるようなことをしていきたいと思って、今サービスもすこしずつ変えようとしています。
―具体的にはどんな取り組みですか?
例えば、今手がけているのは商品開発や企画の支援です。ウィルフォート国際特許事務所としてやっていましたが、今はアイディエーション・ジャパン株式会社としてやっています。
情報の収集や技術情報の収集、技術情報の分析、アイディア発想のやり方といったアメリカの提携先、アイディエーション・インターナショナル社で開発されたシステマティックな方法論を用いて、企業が解決したい技術の問題を短時間で効果的に解決する支援をしています。アイディエーション・インターナショナルとの共同作業で、技術開発支援、さらには次世代の商品企画の支援も手がけています。
こうした取り組みをしていると当然発明は増えますし、出願、権利化の業務も発生していきます。当社だけで権利化できるものもありますが、お客様がすでに提携している特許事務所があれば、その事務所に権利化業務を依頼することもあります。 また、例えば他社の特許が邪魔で開発がとまっているという企業の知財案件もたくさんあります。そうすると、他社の特許をいかにかいくぐって、同じ目的を達成するよりよい技術を出すかというデザインアラウンド=回避設計の支援をしたり、技術者が挙げてきた発明をベースに、発明を拡張するというようなことも考えます。また、それを核として、他社やライバルが真似してきそうなものを予測して、そこまで権利をとっていかなくてはいけません。これは発明強化と呼んでいるのですが、こうすることでより強力な特許を取得することにもつながります。
また、一つの発明でも従来の技術を調べると、すでにあるものに近くて特許にならないというものもあります。私が昔特許事務所に勤めていたころは、こうした発明は特許出願を諦めて、また新しい発明が出たら呼んでくださいといったような対応で、弁理士はあまり深いところまで首を突っ込みませんでした。ですが、そうした対応ではお客様は元も子もないですよね。我々は、進歩性がない技術も特許がとれるように改良したり、あるいは一緒に改良してよりよいものを作ろうと、新しい発明にまでブラッシュアップします。そうすることで、特許をとれないような最初の発明から、5個の特許が取れたりするんですよ。さらに、それがうまくいって、そのうちの1件は他社にライセンスができたとなれば雲泥の差。お客さんのビジネスにとって利益が出るように、いろいろな方面から知的財産の支援をしていくことを考えています。
また、ライバル企業がどのような特許を持っていて、自社と比べて強いのか弱いのかといった情報を把握している企業は少ないのが現状です。そういった情報が必要であれば、ライバル企業を挙げてもらった上で自社の特許と比較する支援もします。自社の強化すべきところがわかったり、ライバルの特許の流れを把握することで、ライバル社がどういう方向へ向かっているのかがわかります。ライバル企業が欧米のビッグカンパニーである場合、マーケットリサーチまでしっかりとやった上で志向していますから、その知恵を拝借することも可能です。有名企業が向かう方向には大きな市場があるということですから、その波に乗せてもらおうと。他の人の権利を技術情報として利用して、お客さんの利益になるような方向性を見出していくということも支援の一つです。その時々でお客さんのニーズは違うので、そのときに応じてや幅広いサポートをしています。
―お客様との信頼関係の構築もそうですが、案件には時間をかけているということですね。案件に深く関わって、技術者として一緒にやっていくという印象を受けます。
まさにそれが我々の目指すところです。いつもお客様に寄り添って、商品の企画段階から開発、市場調査、実施段階、さらにその先までアドバイスできるような関係作りを目指しています。一時的な支援ではなく、できるだけいろいろな段階で接点を持つようにしていきたいですね。そうなれば、お客さんもあらゆる段階で呼んでくれて頼りにされる存在になります。企画の初期段階から入っていき、経営戦略に繋がる特許出願を実現したいですね。 我々は基本的には時間単位で費用をいただいていますが、その時々の支援内容やお客様の予算も聞かせてもらいながら進めています。希望の予算と実際に必要な費用に乖離があっても、信頼ができていれば価値を見出していただけますよね。
アメリカのコンサルティング会社とお付き合いを始めてわかったことは、アメリカの企業がこうした特許をベースにした企業の戦略にかけているお金は桁が違うということです。日本企業が100万円だったらアメリカは1000万とか、1億とか払うわけです。そこから結果を出して、その何倍、何十倍もの成果を挙げています。そういう発想が日本企業にはまだあまりありません。日本企業は、これまでは日本国内で戦ってきたのでこうした発想もそこまで必要ではありませんでしたが、今は中小企業ですらアメリカや中国など海外に進出しています。海外に行けばその海外の市場で戦いになるから、競争力ある知的財産をもって戦う戦略戦術が必要です。そういうグローバルな発想、視点に転換していくとともに、大小関係なくその会社を引っ張るリーダーがどれだけのビジョンを持っているかというのは大事ですね。小さな200人足らずの中小企業であっても、副社長や専務が将来的なビジョンを抱いて取り組んでいる企業があり、それが重要です。そうした攻めの企業は特許戦略の重要性も理解しているところが多いので、お金と時間をかけるんですが、ちゃんと成果を出している。こうしたお客様との付き合いは大切にしたいですね。
―日本の技術は高いと言われていますよね。やり方次第ではもっと強い特許がとれたり、利益が生まれたりすると思います。
個人を見ると、技術者かどうかに関わらず日本人は優秀です。でもその人たちの力が本当に発揮できているかというと、そうではないのが日本の企業の現状なのではないでしょうか。 昔は世界を席巻する勢いがあった大企業でも最近は先行きが不安な状況がありますよね。そこで働いている技術者の能力に差はないはずですが、会社の体質やリーダーの体質が変わっていると思うんです。本当にいい技術を持っているのにもったいないですよね。こうした本来活かされるべき技術を活かしていけるような社会になっていくといいなと思いますね。そこに少しでも加担ができ、社会に、世の中に貢献ができればいいなと思っています。
~次回インタビューでは、中小企業の特許支援に対する考えと今後の弁理士業界について迫ります~
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