【前編】旺知国際特許事務所 大林代表に聞く
特許事務所で働く魅力

業界人に聞く!弁理士業界あれこれ

企業の知的財産部の技術者から、特許事務所への転職を経て独立。弁理士として多彩な経験を持つ旺知国際特許事務所 大林章代表パートナーに、自身のキャリアや現在の取り組みについて聞いた。(インタビュアー REX深田)

―大林先生のご経歴を教えてください。

1959年生まれ、静岡大学工学部電気学科を卒業後、日本ビクター株式会社(現 株式会社JVCケンウッド)に入社し、ビデオ研究所に配属。デジタルVTRの研究開発に従事しました。その後、VHSの権利を掌握していたビデオ企画室と呼ばれる知財の部署へ転属を志願。上司の協力や後押しがあって願いが叶い、30歳でビデオ企画室に配属。そこでVHSの権利の使われ方や発明発掘に従事したのですが、その時に弁理士業務を本格的に勉強したいという思いがあり、35歳のときに特許事務所に転職しました。2つの特許事務所で経験を積んだ後、2002年に弁理士資格を取得したのをきっかけに、翌2003年に独立しました。

―弁理士になろうと思ったきっかけを詳しく教えてください。

最初に配属されたビデオ研究所は、研究開発だけでなく議論が活発に交わされる職場でした。上司たちはみんな優秀で開発に長け、本当に仕事ができる人たちばかりでした。放任主義なところもありましたが、厳しく新人を育て、やる気のある人にどんどん仕事をさせるという職場でした。その中で、私は同僚から、技術的な議論や発明の相談を持ちかけられることが多く、研究開発よりも特許に向いているのではないかと考えるようになりました。また、ビデオ企画室が身近にあって、特許権をビジネスで活用することの重要性がよく分かる環境にいました。そうした環境の中で、発明の発掘や権利化、さらにはビジネスを特許の面でサポートできるようになりたいと考えるようになり、弁理士を目指そうと決意しました。

研究開発で物作りに携わり、企業の知的財産部を経て特許事務所を経験したので、弁理士としてひと通りの経験をしています。このメリットはとても大きいです。発明者のマインドや企業の知的財産部の方が何を考えるのかというのがよく分かります。また、私は弁理士になろうと考えてから資格を取るまでに長い時間がかかりましたが、その一方で多くの受験仲間を得ることができました。こうした人脈は大切ですね。今の事務所も、その当時一緒に勉強した仲間と2人で立ち上げました。

―独立して顧客獲得には苦労されましたか?

最初はうまくやっていけるか不安もありましたが、明細書の質を高く評価していただいていたので営業にはそれほど苦労しませんでした。前の事務所を辞めた後に、お世話になったクライアントに挨拶に行って、そこから仕事を戴くことができました。辞めてきたわけですから、当然その事務所に仕事は残して欲しいですが、もし私が役に立てる仕事があるのであればご依頼くださいと。そこからスタートしています。独立してすぐに3社ほどのクライアントから次々と仕事が入ってくる状態で、仕事に追われる日々でした。

―順調なスタートだったのですね。当時から採用活動に力を入れていたのですか?

採用活動はできなかったですね。そもそも、なぜクライアントが仕事を依頼してくださるかといえば品質を評価してくれているからです。私とパートナーの弁理士にお願いしたいと指名で仕事を出してくださっています。だから最初のうちは自分たちで必死に明細書を書いていました。クライアントには、品質の良いサービスを提供するため、すぐに事務所を大きくすることができないことを、予め説明していました。それから少しずつ所員を増やしていきましたが、最初のうちは知り合いを採用することが殆どです。この人ならきちんとした明細書が書けると分かっている人に入所してもらいました。

―御所の強みや特徴を教えてください。

一つ目の強みは、高い品質の明細書ですね。先行技術と差別化されており、不要な限定を含まない広い特許請求の範囲と、それをサポートする詳細な説明の記載。特許法の条文から導かれる当たり前の話ですが、発明の真髄を書き手が捉えて、言葉を尽くして明細書で表現することは容易でありません。目の肥えたクライアントには発明を充分表現できていない箇所を見抜かれます。品質の担保は事務所の生命線と考えています。

二つ目の強みは、よく考えた中間処理のコメントです。クライアントのニーズを踏まえて複数の案を提示するようにしています。最も積極的な案でも論点の理由づけはしっかり記載しています。「ここで反論するとすればこうなります。反論の理由はこうです。」「実はこの反論は厳しいかもしれない」など、クライアントの判断材料となる情報を記載し、選択してもらいます。

三つ目の強みは、国内技術担当者と外国技術担当者間とが密に連携している点です。翻訳の質が悪い外国出願は、大きなコストが発生します。技術的な理解が無いままの翻訳は、記載不備や無用な進歩性違反の拒絶理由の原因となりますし、良い権利は取得できません。日本語の表現として十分であっても、翻訳する場合に問題となることもあります。このような場合、翻訳に携わる人は国内明細書の作成者に自由に質問できるようにしてあります。また、外国出願に耐えられる国内出願の作成にも力を入れており、米国・中国・欧州といった各国における審査に耐えられる明細書を作ることも意識しています。

丁寧な対応によって、初めてクライアントとの信頼関係が醸成されます。毎日の仕事の積み重ねの中でこうした信頼関係は築いていくものですし、クライアントの課題に深くコミットするのも当所の強みです。例えば、競合他社の出願状況とクライアントの出願状況との比較、技術の推移の予測、クライアントが注力する技術といった出願戦略等をクライアントからご説明いただいて、チームで一連の案件に取り組むこともあります。

―クライアントの意向をしっかりと見据えて、意図することを理解できているからこそ高品質の明細書が書けるのですね。質の高い明細書を書く上で、他に意識されていることはありますか?

当所の案件は、クライアントと全件面接を行います。この面接に力を入れています。充分に予習をしたうえで面接に臨んでいると自負しています。クライアントとどういう議論をしたいかは大事です。面接の前には発明提案書を入手しています。そこには、従来技術、その問題点、具体的な解決方法の流れが記載されています。その流れの中で、本当に権利化したいものは何か、従来技術との差別化のポイントはどこかをまず考えます。従来技術となる公開公報を読み、内容を理解した上で、これだけ差分があるから特許になるとか、今想定している権利範囲よりも広い範囲にチャレンジできる、あるいは、従来技術との差別化のために発明の切り口を変更する等を考えます。
さらに、権利範囲と現在又は将来のビジネスとの関係を考えます。何の目的で特許を取得しようとしているのかといった出願の位置づけも考えます。そのために事前に調べておいて、面接の場では具体的な提案をしていきます。1回の面接は1時間程度ですから、しっかり予習していかないといい議論はできません。こうした積み重ねが明細書の質にも現れていると思っています。

―大林先生が考える弁理士のやりがいとは何でしょうか?

一言で言えば、クライアントから必要とされることですね。もう少し噛み砕くと、課題を解決することで、クライアントから感謝されることがやりがいです。特許出願するのは何らかのビジネスと関係しています。特許を取得するのは、そのビジネスを有利に進め、企業に利益をもたらすためです。発明は、発明者の頭の中で生まれますが、これを文章化しない限り、特許にはなり得ません。発明を発明者の頭から引き出し、更には、自らも考えて文章で発明を表現して、形ある権利として成立させることは、意味のある仕事だと思います。間接的ではありますがクライアントのビジネスに貢献できるのが、弁理士の醍醐味だと思います。

また、弁理士の仕事の本質は代理権の行使です。弁理士は特許庁に対して企業の代表取締役と同じ権限で手続をすることができます。それだけに重い責任を負っています。当所が弁理士の顔写真をホームページに載せているのは、責任を持ってクライアントの権利を扱わせていただくことの表明です。責任とプライドを持って、自分の名前を出しながら仕事をすることが弁理士の大きなやりがいですね。

―御所の今後の展望について教えてください。

2020年に業務法人を立ち上げる予定です。そして、当面の目標は事務所の規模を2倍にすることです。但し、大規模事務所は目指さない。当所の強みを活かしながら中規模事務所を目指して業務の継続性を担保していくことが目標です。そのための第一弾として体制を強化するために、人を補充しようという段階です。中規模事務所で品質の高い事務所を目指しています。

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