独立・開業した弁理士に聞く!特許事務所設立までの経緯や弁理士業界の展望

業界人に聞く!弁理士業界あれこれ

大手メーカーでの経験を経て弁理士という資格に興味を持ち、特許事務所での転職を経て独立。現在は主に中小・ベンチャー企業の特許出願に尽力されている弁理士のA.M先生に、独立までの経緯や弁理士業界の展望について、REXコンサルタントの橋本と深田が迫った。

―先生の経歴を教えてください。

もともと大学で物性物理学を専攻していて超伝導を専門に学びました。でも就職活動をするときには一時期ブームだった超伝導が下火になっていて、就職活動は大変でした。薄膜超伝導の分野から半導体業界に興味をもったこと、もともと大学生の時に1年休学してワーキングホリデーでオーストラリアを一周したりして海外に興味があったこともあり、外資系の半導体製造機器メーカーに入って、5年程エンジニアをやりました。台湾に行ったり、アメリカ内でいろいろなところに行ったりしてマーケットを見たときに、日本の半導体は厳しいなというのを実感していました。
そんなときに、弁理士になろうと思うきっかけを作ってくれた人がいるんです。JICAに勤める行政書士の知り合いなんですが、その彼が「弁理士っていう資格があるから挑戦してみたら」と言ってくれて、それで弁理士に興味を持ちました。

―当時同僚や知り合いの中で弁理士を目指していた人はいたのですか?

いえ、まったく。当時、理系出身者の中で弁理士になるという話は聞いたことがなく、彼に聞いて初めて弁理士という資格を知りました。
彼からの話を聞いて弁理士という資格に興味を持ったんですが、相当難しい試験だとわかったので少し迷いました。一旦転職をして日本のメーカーで2年間働いて、そこで実際にどうするか、弁理士を目指すかどうか悩んでいました。そしてやっぱり弁理士になろうと思ってその会社も辞め、東京に出て特許事務所に入りました。

―先生は弁理士の資格を取る前に特許事務所に入所されて、その後試験に合格されたのですよね。

そうです。試験に合格したのは入所して1年半後くらいですね。最初は特許技術者として入社。特許事務所では半導体の案件が多く、半導体メーカーやガラスメーカーなど大手企業のクライアントが多かったです。30名くらいの部署でした。試験にも受からないといけないので当時は必死でしたね。
そして試験に合格してから気付いたんですが、大手企業だと企業内に知財部があり、そこで話し合った結果、特許を出願したいと特許事務所に依頼をしてくるので、ある意味特許事務所で受けるのは下請けのような仕事でした。せっかく資格をとって法律の知識も身に付いたのに、下請けのような仕事だけやっているのも正直つまらない。もうちょっとコンサル的に企業に関わっていきたいという思いがあったので、仕事に面白味を感じなくなってしまい、物足りなさを感じていました。それが独立を意識するきっかけにもなりました。

―それは何年目くらいですか?

特許事務所に入所してから5年目くらいですね。弁理士の資格を取ってから3年くらい経った頃です。とはいえ独立するにはハードルがあったので、また2年か3年くらい迷って、結局今から2年半くらい前に独立を決意しました。と言ってもトントン拍子とはいかず、周りが失敗している声も聞いていたので、躊躇している部分もありました。
実際に独立している人に話を聞きにいったり、HPを見て「独立の話を聞きたい人も歓迎しますよ」という事務所に電話して、会って話してみたりもしました。その事務所は今提携事務所になっていて、何が縁になるかわからないなと実感しています。そういう人たちの後押しもあって、よしじゃあやってみようと踏ん切りがつきましたね。

-企業と特許事務所の働き方で違いはありましたか?

ありますね。事業会社だと他の人と連携していかないと仕事にならないので、連絡とか他の人の調整が結構大事でしたが、特許事務所ではほぼ一人で仕事が完結するので、勤務時間も自由。その辺りは僕としては良かったです。好き好きだと思いますが、僕は一人でやるのが好きなので、一人で完結できる特許事務所の仕事は魅力でしたね。
それに在籍していた事業会社が何万人も働くような大きい会社だったので、大きすぎて事業が見えないというのがありました。一部分だけしか関われないのはもどかしさもあって、自分で小さい商売をやりたいという思いがありました。企業にいた頃は生産技術を専門にしていて、開発ではなく、実際に開発されたものを現場で改善していく仕事をしていました。お客さんのところに修理に行ったりカスタマイズしたりして、結構ハードでしたよ。

労働時間も特許事務所の方が融通が利きましたね。事務所の場合、残業しなくてはいけないとなっても、どれくらいやればいいかが事前にわかるので、その辺りは本当にやりやすかったですね。これも一人で完結する仕事ならではだと思います。
事業会社だと急に仕事がくることも多かったです。土日もほとんど休みはなく、夕方に電話がかかってきて「明日からアメリカ出張行ってくれ」とかそんな感じでしたから。

―独立して苦労したことはありますか?

開業に向けて大変だったのはお客さんですね。非常に苦労しました。営業経験もなく、特許事務所では書類を書いているだけだったので、どうやってお客さんを集めればいいのか、どうやってアプローチすればいいのかわからなかったので、最初は手あたりしだい電話をかけて会ってもらっていました。最初のうちは1度会ったことがある知財部の人に電話をかけていたので、会ってはもらえましたが、仕事はなかったですね。2、3ヵ月経った頃、大手企業は提携事務所がありますし、そういった大手事務所と比べても僕の事務所に優位性がそこまであるというわけでもないので、大手企業の担当者にアプローチしても仕方ないなと実感して方針を変えました。中小企業やベンチャー企業に絞って、営業をかけるようになりました。

―中小企業にもテレアポでアプローチされたのですか?

それが違ったんですよ。中小企業の場合、まず仕事があるかもわかりません。個別に行っても能力が図りきれないので、他の士業さん、税理士さんと知り合いになって、何かあったら紹介していただける関係をつくることに方針転換をしました。今も士業の集まりに出たりして、そこでお話しいただく機会が多いですね。そうしてやっとお客さんがついてくれるようになったという感じです。

あとは独立して苦労したのは、手続きですね。
書類をつくったりするのは慣れているので、どちらかというと特許庁に対する手続きに苦労しました。特許権は移転だとか名義変更の手続きもあるので、その書類をどう書くか、調べながらの作業で大変でした。企業の場合は中でやる場合も多いですし、中堅規模の特許事務所だと事務員がやることが多いので、なかなか学ぶ機会がないんですよ。難しいわけではないんですが様式が決まっていますし、判子を押す押さないとか、誰の判子がいるとか、相手側の判子も必要なのかとかいろいろあるので。その辺を把握するのに時間がかかって、これでいいのかなと不安を持ちつつやっていましたね。もし漏れがあったとしても手続補正で修正すればいいんですが、例えばお客さんの印鑑を貰い直すというようなことになれば「この先生大丈夫かな」と信用問題にもかかわるのでそこはちょっと大変でした。

―独立から3年。振り返っていかがですか?

実は昨年の半ばに、危ない時期がありました。大手企業の案件をやっていたのですが、事業撤退してしまったのです。売上の3割くらいを占めていたのが一気になくなってしまったので大変でした。上場企業なのでその事業自体はずっと赤字だということを開示資料をみて把握していたので、どこかのタイミングであるだろうなという認識はしていたのですが、意外に撤退時期が早くて…独立して1年半という時期にこの撤退はきつかったですね。今は大手メーカーでも突然切られてもおかしくないので、1社に頼りすぎるのは危ないなという思いもあり、中小、ベンチャーも含めて何社か集めてやっていこうという方針にも繋がりました。コンサル的に仕事をしたいというのと、リスクヘッジの意味で中小・ベンチャーをメインにして、うまくバランスをとっていきたいと考えています。

―コンサルティングではどんなことが重要なのでしょうか。

コンサルでは知財の取り方が重要ですね。どの順序でとっていくとか、1つを小出しで出すのか、調査をしてここの部分はまだ特許をとられていないから先にここを押さえちゃいましょうといったアドバイスは重要です。
あとは海外出願。海外出願は結構お金がかかるので、どこの国でとるかといった戦略も大切です。もちろん海外事務所との提携も含めて考えなくてはいけないですよね。この国に出したいと決まったら、じゃあ事務所探しから、となりますから海外事務所との付き合いも大事だと思っています。最近は中国、韓国での出願も増えていますし、アジアでの需要は増えていくと思います。

それから、中小企業は自社の技術で特許をとれるということに気付いていない人も多いので、特許取得の提案をすると「うちでも特許をとれるんだ!」とびっくりされたりしますね。
特許は、“今まで世の中にあったかどうか”で判断されますので、出願数の少ない分野だとすぐにとれちゃうところもあります。もちろん競争の激しいところもありますが、自社の技術で特許がとれるというのは、中小企業にとっても新しいチャンスですね。特許をとって、それからベンチャーキャピタルに出資してもらって、さらに別の分野での特許出願についてもコンサルしていくという流れをつくるのも戦略です。特許を持っているとベンチャーキャピタルからの評価も上がるので、特許を取得した時点で資金を調達するなど、広く特許を取得すべく試行錯誤をしています。
コンサルは楽しい部分もありますが迷いもあります。正解があるわけでないので辛いところでもありますが、やりがいでもあります。

―独立を目指す弁理士にとって、必要なスキルは何でしょうか。

営業経験のある方はあんまりいないですが、逆に営業ができる方はこの業界はラクに渡っていけると思います。理系で職人肌の人が多いので、いい書類をつくるのは得意でも、交渉事が苦手だったりする方も多いので、営業・折衝力は重宝しますね。

あとは英語!英語はやっておいた方がすごくいいです。
特許出願の際は、中小企業のクライアントでも英語でやってくれと言われますので。
僕はインドとのやりとりが大変でした。インドの方から日本で特許をとりたいという話があったんですが、制度も違うし言葉も違うので、英語でやり取りしながら擦り合わせていく作業は大変でしたね。

ただ会話で英語が必要だと感じたことはあまりありません。だいたいメールやFAXが中心なので、読み書きができればいいですね。会話ができればなおベター。たまに期限ぎりぎりというときは電話でやり取りをしないといけないこともあるので、しゃべれるに越したことはありません。
それと英語は文法が重要です。明細書関係は文法を間違えるとニュアンスも変わってしまうので、できるだけ短い文で完結に。主語は毎回入れて、一文一文簡潔にしていきます。日本語だと読みにくいけど、英語で見ると間違いない。わざとそうすることが多いです。

単語力も大事ですよね。辞書で書かれている日本語と業界で使われる単語のニュアンスが違ったりもするので特殊なんです。技術の知識はもちろん大事ですが、英語力と営業力があれば鬼に金棒かなと思います。

―これから人材採用をしていく場合、どんな人と働きたいですか?

自分で考えて動ける方がいいですね。それから自分の意見が言える方、事務所の考え方に賛同できる方。自分はこれしかやりませんとか、狭い視野でしか考えられない人は難しいですね。一緒に事務所を経営して良くしていきましょうという意識を持った方でないとうまくいかないと思います。

―今後の弁理士業界についてどうお考えですか。

私としては、弁理士の地位を向上させたいと思っています。弁護士や公認会計士の先生だと、企業の顧問についている方もいますし、外部の取締役についている方もいますが、弁理士ではあまりいませんよね。弁理士=技術的な取締役として、外部アドバイザーという立場でやってみたいですね。

そうしていくには特許庁や国の働きかけも必要ですが、弁護士の先生と話していると
弁理士はもっとロビー活動をやらなきゃいけないねという話はよく聞きます。弁理士は話しが苦手な人が多く、仕事柄、表にでることも少ないので、コネクションを持てないんですね。マーケットにアピールすることも少ない。そういう意味ではメディアと繋がるコネも大切です。
最近は弁理士会などで集まったときにもそういう話は挙がります。もう少し弁理士の地位を上げたい、知られる存在になりたいという話題です。ただ具体的な動きはまだまだないですね。試行錯誤にはなると思いますが、若手の意識が強いので、今後少しずつ変わっていくのかなと思います。

―最後に、御社の展望をお願いします。

特許出願を通して、ベンチャー企業のIPO支援をやりたいですね。IPOに強い事務所として知名度が上がればいいなと思います。特許がどう絡めるのかは考える必要がありますが、可能性としては大きいと思っています。
それから研究・開発畑の企業に対して、資金面も含めてサポートできる体制を作りたいと思っています。お金を出す側に知財の重要性もアピールをしていかなければいけないと感じています。

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